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ぼくの雪片
<雪>-ボクノセッペン-
そらから白きものが舞い降りてくる。
(あ。)
ふ、と手を伸ばして受けとめた。
てのひらの上で、雪のかけらは、しゅうっと粉砂糖のように溶ける。
この一瞬が、虜になってしまうくらい、好きだ。
降りつもった雪をすくいとるのとはまるで違う、どきどきをおぼえる。
ひっそりとした、ひとには教えたくない愉しみ。
稚(おさな)いころから、ひらひらと舞い降りてくる白い冬の使者をみつけると――窓から外を良く眺めていた所為か、いちばんに気づくことが多かった――ひとり、すっと手を差しだして、なんとなく秘密めいて受けとめては溶かし、受けとめては溶かししていたのだが、ごく最近気がついた。
この行為は、あれと抱きあうことに、酷く似ている。
どことなくひいやりとした清潔な匂いのするしん、としたあのからだが、僕の手や声やくちびるで、どんどんと体熱をあげていって、ふわり、とほどけるあの瞬間。
溶けてなくなるのではなく、からだごとこころまでひとつになるみたいな、あの感覚。
なんだ、と思う。 なんだ、随分と前から僕はあれ――僕の従者を好きだったのだな、とにっこりする。
「ずっと何かに似ていると思っていたのだが――、」
すこしつま先立って〈ひとに云わない愉しみ〉を、傍らに在る彼の耳にそろりと囁きこめば、
「――……」
声もなくただかーっと火照る気配。
それだけでほかほかと、こちらの体温も上昇する。
その熱で、僕のなかの何かも、しゅうっと溶けるようで、ちょっとおかしいくらいに気持ちが好い。
「ほら、な?」
笑いながらも、真正直に上気した顔で覗きこむと、僕の従者は、何を口走ってしまうかわからないといった形相でくちびるを引き結んで、固まっている。
想いが通じるまでの年月をふり返って、ひとひらひとひらはすぐ溶かせても、降りつもると手ごわいところまでそっくりだ、と独りごとめいてつづけると、返ってきた幽かな幽かなつぶやき。
「……私は雪がつもって城に閉じこめられるのが好きでした。」
他に理由がなくてもご一緒できますから、とあさってのほうを向いて、耳に届くか届かないかというぎりぎりのトォンで、ぎりぎりのラインで、云うのに、眼をみはった。
城から出られないほど雪がつもったことは、そう、ない。
過去いく度かあったそれは、どれも僕がまだかなり背のちいさかったころ――
なんだ、と思う――なんだ、随分と前からおまえは僕を好きだったのだな、と。
思いがけなく知らされたそのことばに、これだからやはり手ごわいというのだ、と幸福な笑いまじりにくちびるをかさねて、口の固い僕の雪片をゆっくりと心ゆくまで溶かした。
2007.12.25
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