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花持たざる男
<花>-ハナモタザルオトコ-
つくづく花の似合わない男、というものがいるものだ。
むろん、艶やかに咲き誇る花々を背中にしょってなお、格好のつく男はそうそういはしないけれど、そういう意味だけでなく、持っているのさえさまにならない男がこの世には存在する。
ルーキウス王国の第二王子は、いつも以上に所在なさげな困った顔で、それでもてくてくと城内をゆく彼の従者を、しごく客観的にそう分析した。
りぼんのついた大きな花束を抱えて。
あまつさえ両手でなんぞ持って。
……似合わない。
どうしたって、いかにも花に〈持たされている〉といった風情だ。
まぬけなのはいつものことだが、と後ろに回りこんでつま先を立てると、耳もとでぼそりと言う。
「花なぞ持ってどうしたのだ。」
「……っわ……」
思わずあげかけた声を、しまった、という顔でばしんと片手で口に蓋をする、彼。
そのぽかっと空けた口が、まぬけだけれどかわいくて良いのに、とすこし残念に思う。
「仮にもこの国の王子であられる方が、後ろから忍び足で来たりなさらないでください。」
お行儀のわるい、といういつものお説教を、いつものごとくくだらん、とごみ箱にでも捨てるようにほおり投げ――けれど今度はきちんと彼の真正面から向きあって問う。
「で、どうしたんだ、それは。」
「……どうしたもなにも、持ってきたんです。
……その……リナリア様、に。」
おまえが? それは意外だ、と眼をみはる王子に、彼の従者はあわてたように弁解をはじめた。
別に姉上に持ってきたことでなく、花を持っているのが意外なのだが……、彼が姉姫にひそかな好意を抱いているのなど、とっくにお見とおしだ……とそのあわてぶりをおもしろく思いながら聞いてやる。
「ご、誤解なさらないでください、他意はありませんよ?
久しぶりに家へ帰ったら、庭にきれいに咲いていたので、なんとなくリナリア様にと切って、なんとなく持っていこうとしたら、母と妹にこんなにされてしまっただけなんです!」
「なんだ、僕はてっきり兄上のお使いで、どこぞの女性にでも届けにゆくのかと思ったぞ。
そんな意中の方がいるのであれば、調査せねば、と思わず忍びよってしまったではないか。」
なんだなんだ、つまらんと盛大に残念がる王子に、彼の従者はため息をつく。
またお説教だろうか、とその顔をみあげると、なんとも形容しがたい表情が浮かんでいた。
「……言いたくはありませんが、そう言われたのは貴方で、」
じゅうにんめ、と言いかけたそのとき、桃色の愛らしいドレス姿がひらひらと通りかかる。
そして。
「カナン、セレスト、ごきげんよう。
……あらセレスト、花束など持って、兄上のお使いかしら?」
声もなくつっぷした――立っているのだからこの表現は正しくないのだが――従者に王子は大笑いして
「じゅういちにんめだな。」
と言って、ぱんぱんと彼の背中を叩いた。
「別に男に花が似合わなくとも良いではないか。
だからこそ似あう女性に贈るものなのだと思うぞ?」
こんな風に、と情けない顔で花束を持つ彼の従者の手を取って、その手ごと姉姫へと花を手渡す。
ほら、これで。
さっぱりとした身ひとつ、そのままのおまえで僕には充分だ、と王子はにっこりと笑った。
2008.01.04
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