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足
ふくらはぎの上まである飴色の長靴(ちょうか)を足に留めつけている細かい金属の歯を、じぃっと一気に引きおろす音。
風の守護聖との密事はいつもこの、靴を剥ぎとる行為よりはじまる。
抱きあって、キスをして、眼まぜをかわして、揃って倒れこんで――、
靴を脱がされれば、それが合図。
何故かこの青年は、燃えるような青の眸で、つやりとしたくちびるで、両の足を覆うそれを取り去るまでは、けして抱かれようとしない。
一風変わったその流儀は、はじめて抱きあった時からずっとつづいている。
最初は面喰らったものの、足を締めつけるそれを、熱っぽい手で剥いだ後に、何処か興奮をたたえて、上気した頬でにっと笑うさまが、まがえようもなく男の顔であるくせに、凄絶にぞくりとこちらを刺激するものでもあったので――呑まれてしまった。
爾来、そのまま好きなようにさせている。
そのかわり、こちらも、焦らすように上から順々に剥いて、柔らかいなめし皮でくるまれた彼の足は最後までおあずけというやり方で、好きにしているが。
……結局のところ、どんなふうに裸にしようと、その、ただでさえ伸びやかで仕方のない足には、履けば鳥のように身が軽くなり空を飛ぶことができたと云われる翼もつ靴――タラリアを、生まれながらにして着けているのだから、それくらい――こんな時くらいは良いだろうが、と誰にともなく、やや皮肉な微笑いを浮かべて。
そうやって好きに長くゆるい時間をかけて、ようやっと眼の前に晒された素足を、己れの所有物であるかのように、赦された無理矢理さで、肩うえへと担(かつ)ぎあげながら、冷めたい舌を、しるしのように、足くびから付けねまで這わせれば、されるがままでなく、反撃を仕掛けてくる手。
悦いのが、また、いけない、と、顔を顰め、からだすべてで、のしかかるように封じて、不敵に笑ってみせた。
火花の散るようなその、主導のつなの獲りあいは、お互い男であるがゆえの証しのようなものであり、それすら蜜めいて愉しみのうちに含まれていたが、それでも、それなら、なおのこと放せないなと笑んで、一層きつく、抱く。
抑えた声を潜めた無言の競りあいのすえ、びく、と押さえた奔放な足が跳ねあがるのに一瞬、満足げな微笑を口の端に貼りつけ、さらに舌さきを、くちびるを、たぎる身をすすめて、火を伝染すように煽りきって、埋ずめる。
みえない羽根のついたくるぶしを、五指の痕がつくほどきつく掴んで、自由に飛ばさせないまま。
かすれて、手、と抗議めいた声があがる。
手が、なに――と、ぴたりとあわさった胸をよりぐっとつよく押しつけて低く囁くだけで、上気(のぼ)せたように焦点のさだまらない眸が、さらに滲んで蕩けた色を映しだした。
そのまま堕ちそうな表情で、それでも、みだれた呼気の合い間に途切らせながら、はなしてよ、と云う幽かな声。
厭か、と訊けば、ゆるゆるとくびを振るのに、じゃあ、とやんわり笑みながら問うた。
「俺が、嫌いか?」
「なんで好きって訊かないんです……」
いつもの繰りごとに、いつもの応え。
酩酊した表情で、それでも確りと振られるくび。
「なら、放さない。」
「どうして、そんな、我儘云うんだ――」
我儘、は! そうだろうとも、と高い笑い声とともに、さらに昂ぶったからだを埋ずめこみ、我がもの顔に担ぎあげた足くびにくちづけて……、
彼の足を掴む自身の手に眼をやる。
「こんなものは、ぬるい鎖だ。」
と、眼前にちかりと物騒に躍る青。
未だつながりあったからだを、きゅうに、無理に、ぐっと起こしてくるのに、何だと思う間もなく、足を掴む手もそのままに、ぐるりと世界が廻った。
一瞬脳髄が白くなる。
「……秘密を教えて、あげましょうか。」
どうして俺が貴方の靴を最初に脱がせたがるのか、と無茶をしたつけの痛みに眉を寄せ、かるい苦鳴を漏らしつつも、笑顔で、逆転した体勢から、悪戯な表情で、真剣なまなざしで、覗きこんでくる。
「裸足に剥ぐって行為は、逃げようと思う心を、挫くんだそうです。
俺はただ、したいからやってただけなんですけど、この前読んだ兵法書に、捕虜に対するきわめて有効な法だと載っていました。」
何時も真っ先に貴方の足を裸に剥いてる俺は要するに、と彼は、あの凄絶に刺激される表情で、にや、と笑った。
「逃がしたくないって、ことです。
……これじゃ足りない?」
俺は、貴方の手で触れられなきゃ全然足りないよ――手を、自由にしてくれなきゃこっちから襲う、と囁く彼に、ぬるい鎖は呆気なく外れ、地についたその足を捕らえきった、倖福な手だけが残された。
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